帰れない山 

家みたいに思える山がある人は多いでしょう。
わたしにとってそれはしらびそ小屋のある八ヶ岳です。
通い慣れた山道を歩きつづけることは
思い出に深く分け入るようなものかもしれませんね。
ふと人生を振り返っていることに気付かされます。

あの頃の自分には戻れないと寂しくなることもあれば
出会ってきた風景の意味を考えているかもしれません。
そんな山は人生においてきっと一つしか存在せず
どんな名峰でさえも霞んでいくのでしょう。

親子での別荘生活や登山といった思春期の記憶が
風景のなかで反芻されていくこの物語は
山との関わり方を考えるきっかけを与えてくれたと思います。

著者自身も幼少期より登山に親しんでいたからか
その文章からは濃密な山の気配が感じられましたし、
また男女による好みの違いが絶妙に書かれている場面などは
ついつい微笑みながら頷いてしまいました。

山岳雑誌にも多数紹介されていた新潮社クレストの1冊です。
このシリーズは興味深い翻訳を数多く企画してくれています。

パオロ・コニエッティ(作者)

1978年ミラノ生まれ。2017年、初の本格的な長篇小説となる『帰れない山』で、イタリア文学最高峰の「ストレーガ賞」とフランス文学最高峰の「メディシス賞」を受賞。幼い頃から父と登山に親しみ、1年の半分をアルプス山麓で、残りをミラノで過ごしながら執筆活動をされています。

関口 英子(翻訳者)

イタリア文学の翻訳者としてイタロ・カルヴィーノなど数多くの作品に携わっておられます。須賀敦子翻訳賞の第一回受賞者。山に親しみがないと難しい場面ばかりだったかと思いますが、詳細に下調べをしてくださったのか、自然と作品に入り込むことができました。素敵な翻訳をありがとうございます。

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